みなさんこんにちは。皮膚科医の玉城有紀です。
このブログは、皮膚の病気でお悩みの患者さんに正しい知識を届けるため、現役の皮膚科医として私が発信しています。
今日のテーマは「意外と知られていない手汗の保険治療」です。
手汗とは何か、症状や治療方法、市販の制汗剤との違い、そして保険で処方できるようになった「アポハイドローション」の使い方や副作用、効果について詳しくお話ししていきます。
手汗とは?
手汗は医学的に「原発性手掌多汗症」と呼ばれ、特に病気がないのにもかかわらず、日常生活に支障が出るほど手のひらに汗が出てしまう状態です。隠れている病気としては甲状腺機能亢進症や更年期障害などがありますが、そういった要因がないのに起こるのが特徴です。
日本国内には約500万人の患者さんがいるといわれ、日本人の19人に1人の割合で悩んでいることになります。しかし、実際にクリニックで治療を受けているのはわずか2%、およそ10万人に過ぎません。

症状について
手汗の症状は多くの場合10代(平均13.8歳)であらわれます。学校生活への影響は大きく、ノートが手汗でふにゃふにゃになったり、試験中に緊張で汗が増えてテスト用紙が破れてしまったりします。
また、ハンカチやタオルが手放せず、人前で物を受け渡すのが恥ずかしい、楽器やスポーツに制限がかかる、冷えてしもやけになる、握手ができない、書類に汗じみがつく、といった困りごとがあります。中には希望する職業を諦めざるを得なかった方もいるほどです。
治療方法の変化
これまでの治療法には、塩化アルミニウム液を塗って汗腺を塞ぐ方法、イオントフォレーシス(水素イオンで汗腺の出口を小さくする)、ボトックス注射(自費)、抗コリン薬の内服(プロ・バンサイン)などがありました。

ただし内服薬には、目がかすむ、口が乾く、便秘などの副作用があり、高齢の方では長期使用による認知機能低下が問題となることもあります。
そんな中、2023年6月に新しく登場したのが「アポハイドローション」です。
これは抗コリン外用薬で、手のひらに塗ることで交感神経から分泌される発汗を促す物質をブロックします。
市販の制汗剤との違い
多くの方が市販の制汗剤を試されていますが、実際には約8割の方が「効果がなかった」と感じています。努力されてきた方には本当に頭が下がります。そのような方こそ、ぜひアポハイドローションを試していただきたいと思います。
使い方と注意点
使用方法は簡単で、1日1回、寝る前に片手のひらに5プッシュ出し、両手に均等に塗ります。乾きが早いので手袋は不要です。その後はコンタクトレンズを触らないように注意し、目や口に触れてしまった場合は水で洗い流してください。翌朝に手を洗い流せば完了です。
副作用としては、口の渇きや尿が出にくいといった症状があります。その場合は使用を中止してください。また、手の湿疹がひどい方、閉塞隅角緑内障、前立腺肥大、不整脈、重症筋無力症のある方は使用できません。
効果について
アポハイドローションは毎日使うことで安定した効果が得られます。早ければ1週間で効き目を感じ、4週間で半数の方が「手汗が半分以下になった」と答えています。市販薬で効果を実感できるのは約2割にすぎませんが、アポハイドローションでは7割の方が効果を実感しています。
治療のゴールは「汗をゼロにすること」ではなく、「日常生活での困りごとを減らすこと」です。
まとめ
手汗は決して珍しい症状ではなく、500万人もの方が悩んでいます。それにもかかわらず、多くの方が「病気であること」や「治療できること」を知りません。
アポハイドローションが保険で使えるようになったことで、より多くの患者さんが安心して治療を受けられる時代になりました。もし手汗で生活に支障がある方は、ぜひお近くの皮膚科を受診して相談してみてください。

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